三田真由さん
TOSAKANMURI FOODS主宰
トサカンムリさんといえば、カレーパン! と答える人も少なくないでしょう。ふわふわで、中身が濃くって、ちょっぴりスパイシーで……。主宰の三田さんによるコラムも、おんなじ味。今回は、「TOSAKANMURI FOODS」の生まれるきっかけ(?)のお話です。焼きたてさくさくのコラムを、どうぞ召し上がれ。
相手の立場になって考える。
たとえ相手になりきれなくても、少しは相手のことを理解できる気がした。
4歳の頃から鍵っ子だった私は、幼稚園から帰ると、
花や植木、ぬいぐるみはもちろんのこと、家の中のあらゆるものに、
「ただいま!」と声をかけて会話をした。
それらは、静かに私の帰りを温かく迎えてくれていた・・・はず。
そんな幼少期を過ごしたものだから、物と者に対する感覚の境目が薄れてしまったのかもしれない。
物も者もモノ、だと。
自分がまさか今のような食にまつわる仕事につくなんて、思いもしなかった頃のこと。
物も者もモノ、という考えを基本に作品制作をした美術大学の卒業制作のテーマとして、
人間にはほとんど感じることのない食べられるという感覚を、相手の立場になって考えてみようと思った。
大学に入ってから呼ばれるようになった「さんまゆ」という呼び名には、とても愛着があった。
そこから、自他共によく連想されたのは「さんま」である。
じゃあ「さんま」になろう。
そうだ、せっかくだから、お店の人が作る「さんま定食」になってみよう!
というのが、立場となる相手を決める思考の、大まかな回路であるのだが、
ここはひとつ、さらりと読み過ごしていただきたいところ。
それから数ヶ月の間、「さんま定食」の立場になってみるために、
私の頭の中は、「さんま定食」のことでいっぱいだった。
後にも先にも、あんなに「さんま定食」について考えたことはないと思う。
『対 気分 〜さんま定食の場合〜』と題した卒業制作は、
木や布やプラスチック、ゴムなど、あらゆる素材を用いて、
全長3メートル近くある、人が中に入れる仕組みの巨大なさんまの塩焼きを中心に、
定食になるためのご飯やお味噌汁、たくあん、大根おろしなども拵えた。
いかにリアルに料理するかということに昼夜没頭し、自分の身長の倍ほどもあるさんまに悪戦苦闘した。
傍から見れば、なんとも滑稽な姿であっただろう。
けれども、出来上がった巨大な「さんま定食」は、私の意志とは裏腹に明後日の方を向いていた。
けれども、その明後日の方向で、私の中の何かがゆっくりと動き出していたのだ。
作ることで表現し続けたいと思う気持ちと、作り出した物に対する責任を、
どのように果たせばいいのだろうか?
フラフラと長くも短くも数年考えた末に出た結論は、
『食を通して物づくりを表現すること』だった。
「さんま定食」と向き合った、あの香ばしくも脂ののった日々が、
今のTOSAKANMURI FOODSを形成しているということか・・・?
あぁ、「さんま定食」様。
食べてしまいたいほど、あなたが愛しい。
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