第4話 家づくりは楽しさ半分、苦しみ半分

棚、玄関、キッチン。ゆっくり進める家づくり。

トミタ 壁は自分達で塗ったり、玄関のタイルを貼ったり。
絶えず手を動かしている様子がInstagram(@orne_ie)でも発信されていますが、実際どのくらい仕上がった状態でお引き渡しだったのでしょうか?
たまに一部仕上げ途中でお渡しする…というケースも見かけますが、どちらかというと仕上がりについて打ち合わせして確認する職種なので気になってしまって(笑)。

谷 建具はついていて、天井を白く塗った以外は未完成の状態で引き渡しでしたね。壁は何も仕上がっていませんでした(笑)。

トミタ ちょっと予想以上に広範囲です(笑)。引っ越しできない(笑)。

谷 早く引っ越ししなきゃとは思っていたんですよ。賃料とローンがダブルでかかる状態も早く脱さないと!と思って。

トミタ 確かにそうですよね!
建築会社から自分達の手に引き継いで、いよいよ「#建てると住むの間」が本格的に始まりましたが、そこからはどのように進めていかれたのでしょう?

谷 まずは住めるように壁を白く塗るところから始めました。引っ越してからは棚をつけたり、1階の扉部分をなくして玄関を広くしたり、1階のサブキッチンを作ったり、同時並行でちまちま進めている感じです。

—— あの…キッチンを作るっていうことが想像できないんですが(笑)。

谷 水道は引いてもらってますよ。構造は簡単で、給水さえあれば、あとは天板とシンクがあれば基本はできる話で。

トミタ 私も最初にお話しを聞いた時は、内心「え、作った…?」と思いました(笑) 。
確かに、キッチンを分解して考えると排水・給水とガスか電気があって、そこに台がくっついていればいいのですが…。

谷 そうそう、あとはそこに換気扇と天板つけるとか、壁塗るとか。

トミタ いやいやいや、自分で作るのは流石に…(笑)。

谷 構造がわかってしまえば怖いものはないけど、「わからないと怖い」みたいなところが僕も最初はありました。
でも、どんな家にしたいかを考えた時と同じで、どういうキッチンで料理をするのが自分にとって一番心地よいか、を考えたいなと思って。
もちろん、どこのメーカーの何を、どんな組み合わせで…という決め方もあるけど、僕は素材感とか面白いつくりとかに惹かれるので、大変だけど自作して色々試せたのは良かったと思っているんです。

トミタ 自作キッチンまで思い切れるかは一旦置いておきますが…
長年のDIY経験があって出来ていることですので(笑)。

谷 できつつある(笑)。失敗は多々(笑)。

トミタ 多々(笑)。
谷さんのDIYは規模が大きいので、その行動に目が行きがちです。家づくり全体を通して大事にされてきた「どういう〇〇が自分にとって心地良いか、暮らしに合っているか」という考えに基づいた手段が、谷さんにとってのDIYなんですね。

谷 そうなるのかなぁ。何だか想像していたよりも、家づくりって選択を迫られることの連続でした。あれ決めて、これ決めて…で、すぐ締切が来るでしょう?

トミタ 本当にその通りなんです。
建物が完成するまで、お客様は頑張って駆け抜けなければいけない分、インテリアコーディネーターはそこでの暮らしに永く楽しく向き合っていけるお手伝いがしたいと思ってはいるのですが…本当に忙しないですよね。

谷 さらにこだわればこだわるほど、パッと答えは出せないですよね。
住んでみないとわからないこともあるし、自分で出来る部分は住みながらじっくり考えたい気持ちもあって、今は棚一つにしてもどんな素材のどんな厚さで、どこにこだわってということを立ち止まってやってるかな。

トミタ 私は自分が最近引越しをしてみて、「#建てると住むの間」は家を建てている人にも、賃貸に住んでいる人にもあるなぁと感じています。建物を自力でトントン建てるわけでもないけれど、ただ住むだけでもない。やっぱり実際に住み始めて、暮らしの流れが見えてくる中で、大なり小なり心地よさを求めて何かしらは考えると思うんです。
最近は、原状回復可能な範囲で床材や壁紙を上貼りしたりする方も増えていますよね。それもその人なりに「どういう空間が自分にとって心地いいのか」を考えた結果なんだと思うんです。そうやって考えた事が重なっていくと、もっとインテリアも楽しくなるのかな…なんて。

トミタ 今まさにお家を建てられている方も、引き渡しのタイミングを「完成」っていう風に考えて100%を目指してしまうと苦しくなることもあると思うんです。
暮らしも日々変化していくので、谷さんみたいに自分でカスタマイズ出来そうなところを残すも良し、もう少し気軽にちょっと棚を足してみようとか、置き場所を変えてみようとか柔軟に対応していけると良いですよね。

楽しさ半分、苦しみ半分。

—— 谷さんが住みながら家づくりをしているのって、それ自体も楽しいのか、試行錯誤して理想に近づけるためにやっているんですか?
なんでそれをやるんだろう、というのが聞きたくて。

 半々。
楽しいで言うと、スキルが増えたりするのは嬉しいものですね。もしかしたらこのスキルが、おじいちゃんになっても役に立つことがあるんじゃないか…とか想像するのも楽しい。
あと「こういうものが作りたい」っていうのはなかなか人に伝わらないから、自分でやってみるしかないっていうのもあるなぁ。

トミタ 社内の打ち合わせの時も「ないものが欲しい」ってよくおっしゃいますよね。オルネのものづくりも発想の根っこは同じ気がします。

谷 そうですね…うーん、結局楽しさ半分、苦しみ半分かな。
一喜一憂なんです。
扉の色とか、「ああこれイマイチだったかも…」と思いながら塗っても、塗り終わって「よかった」って思ったりする、とかね。

トミタ 気持ちのアップダウンはありますよね。

谷 今まで自分の家以外にも何軒かお店づくりや、ものづくりもしてきたけど、頭の中や図面で考えるのも限界があると思っているんです。ひらめきとか人間の想像力は実はそこまですごくないので、実際に手を動かしたりする方が新しい発見や偶然の発見があったりするし。

谷 この前も、窓ガラスの張り替えをしていたんですけど、奥さんはずっと前から「ここの窓ガラスは枠のところに木材を見せたい」って言ってた場所で。僕はあんまりピンときていなかったんですけど、やり直し中に、たまたま木の下地が見えている瞬間があって、それを見たら「あ、これいいじゃん」ってやっと良さを理解した(笑)。
思ってもなかったけども、実際に置かれてみて「そっちがいいかも」っていうことってあるんですよね。
自分でやると、そういう時に一旦止めたりも出来るのがいいなと思ってます。

—— 住んでみて、自分の暮らし方に合わせて作ってみたり、変えてみたり。
実際に手を動かしたからこそ気づけることもあると言います。

谷は、私たちより家とのキョリが近いよう。
「家や建物のことはよく分からない」と思わずに、自分の方にたぐり寄せて、家と対話するように手を加える。

そういう過程を経て、他の誰でもない自分の家になるのかもしれません。

2023.4.21

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