11「ドイツの夏休み」

ミュンヘンは、まるで乾燥機の中にいるような暑くて乾燥した6月のあと、雨続きで最高気温が20度前後の肌寒い7月を経て、冴えない天気のまま8月の夏休みシーズンになりました。

ドイツの学校の夏休みは、州ごとに時期が少しずつずらされています。休暇先の混雑や交通渋滞を避けるための、合理的な仕組みです。早い州では6月末から夏休みがスタートし、私の住むバイエルン州はいつも最後発で、今年は8月1日からでした。

子どもがいる家庭では当然このタイミングで休暇を取るので、今は多くの住人がバカンス中のはず。他所から来た観光客で、街は一見にぎやかに見えるものの、住民目線ではどこかまったりした停滞感が漂い、8月はすごろくの「一回休みのマス」に止まったような気分です。

ドイツをはじめヨーロッパ諸国は、バカンスが長いことで知られていますよね。最低でも2週間、3週間以上もめずらしくありません。日本人からすると、どうやって成り立っているのか不思議ですが、こちらでは長期休暇を取るのは社会の大前提。社員の不在やお店の休業などで多少の不便が生じても「お互いさま」として受け入れています。

長い休暇の過ごし方は千差万別ですが、やはり「バカンス」と言えば海辺のリゾート。ドイツは自国に海が少ないので、イタリアやスペイン、ギリシャ、トルコ(意外とリゾート地)など、太陽と青い海を求めて南へ向かう人が多いです。

中でも地中海に浮かぶマヨルカ島は、日本人にとってのハワイのような存在。別荘を所有する人や定年後に移住する人も多く、ドイツ語が通じる店やエリアも少なくありません。ビーチとナイトライフ目当ての若者たちにも人気です。

早朝にホテルのプールサイドの席をタオルで場所取りを繰り広げる姿や、「サンダルに靴下」など、ちょっとダサいファッションは、夏のリゾート地の「ドイツ人あるある」としてよくネタにされます。(でもこのサンダル+靴下は、最近おしゃれ扱いされているみたいで複雑...)

国内なら北海やバルト海沿いの北のリゾート地も意外と人気です。ドイツ最北のジルト島は憧れの高級保養地として知られています。風が強いので、パラソルではなくStrandkorb(シュトラントコルプ)というカゴでできた箱型チェアが並べられているのも、北のビーチの特徴です。

山派なら南ドイツからオーストリア、北イタリアにかけてのアルプス地方が主要なバカンス先。高原や湖畔のホテルでくつろいだり、アクティブに登山に挑んだり、自分の自転車を持ち込んでサイクリングを楽しむ人も多いです。

【地図】地中海の海岸線はほぼ全域にリゾートが広がっていますが、イタリア、フランス、スペインは自国民のバカンス客も押し寄せて混み合いますし、物価も高いので、クロアチア、ギリシャ、トルコ方面が人気のようです。

滞在スタイルも様々です。ホテルにこもって何もしない「ぐうたら派」、キッチン付きの貸しアパートで気ままに自炊するタイプ、キャンピングカーで移動しながら冒険気分を味わう人たち、など...

この「暮らすように旅する」スタイル、おしゃれな旅の仕方として語られることもありますが、長期になればなるほど宿泊費も食費もかさむので、実際は現実的な選択なのかもしれないです。

ちなみに、隣のフランスもバカンス大国ですが、フランス人がただ気の向くままに過ごすのに対し、ドイツ人のほうが「有意義に休もう」という目的意識が少しだけ強いかもしれません。

もちろん、みんなが旅行に出かけるわけではなく、親戚の家を訪れたり、日帰りで近郊の森や湖に出かけたり、公園や自宅でバーベキューを楽しんだりと、身近で夏を満喫する人たちもたくさんいます。

自分はハイシーズンを避けて6月ごろに夏休みを取ることが多いので、8月は居残り組の気分でまったり過ごし、天気の良い週末にふらりと山に登ったりしています。

行き先や過ごし方は違っても、バカンスのいちばんの目的は、日常から離れてリラックスし、心も体もしっかり充電すること。それは仕事のためではなく「自分(と家族)」のための時間です。

普段「自分」だと思っている肩書きや役割とは別の「素の自分」が顔をのぞかせる、長いバカンスにはそんな効果があるのではないかと思います。

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と、偉そうにバカンス論を語りましたが、自分の休みはというと、どうしてもスケジュールを詰め込んで観光スポット巡りをしてしまいます。毎回「次こそは一か所で腰を落ち着けて」と思うのですが… 何もしない休暇を味わうには、まだまだ未熟者のようです。


ドイツ在住スタッフ・チノ

2005年よりドイツのミュンヘンに在住。リモートワークでWEBショップの制作を担当しています。旅行、山歩き、甘いものが好き。
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