今となっては、「ラグ屋さん」「クッション屋さん」「カンタ屋さん」などと言われるほど、オルネ ド フォイユでは数多くのファブリックアイテムを取り扱っています。
そんな様々な布ものを仕入れているのが、オーナー・谷あきら。
当然、オーナーは昔から大の布好きかと思いきや、案外そういうわけでもなかったのだとか。そこで今回は、あまり知られていない、オーナー谷がオルネ ド フォイユをはじめる前のお話や布好きになるきっかけ、そして数あるアイテムを見立てる力がどのように磨かれてきたのかなど、たっぷりと語ってもらいました!
谷 あきら
オルネ ド フォイユのオーナー。24歳のときに渡仏し、2000年に古い日本家具の店を構え、ヨーロッパの展示会などにも出店。帰国後の2004年にオルネ ド フォイユを青山にオープン(現在は不動前に移転)。
最近は自身の家づくりの記録や猫と暮らす日々などをInstagramにて更新中。
― 今日は谷さんのこれまでについて、いろいろとお話を聞かせてください!
谷 あらためて聞かれるの、なんか緊張する…。
― そんな、かしこまらずに(笑)。普段通りお願いします。谷さんはフランスで暮らした経験があって、その後オルネ ド フォイユをオープンしてという、かなりざっくりとしたことしか知らないのですが…その前は何をされていたのでしょうか?
谷 そうだよね。びっくりされるけど、ほんとにほんとの最初は着物の会社で働いていたんです。
― え…!着物?
谷 そう。大学を卒業する頃、正直やりたいこともわからなくて、でも就職しなきゃという焦りもあって。アパレルと着物の会社に入社して、着物の担当に配属されまして。最初はもう、嫌で嫌で仕方がなかった(笑)。
― そんなに嫌だったんですか!(笑)
谷
うん(笑)。でも、着物を見ても何の興味もわかなかったのが、仕事をしていくうちに少しずつ「これは嫌いだけど、これは好き」という、自分の中の好きと嫌いがわかるようになったんです。
― 少しずつ楽しみが出てきたということですか?
谷 どうだろう(笑)。でも今思うと、たくさんの着物や帯、その組み合わせを見てきたことが良い経験になったのかなあ。着物を並べるにしても、好きな帯留めの色と並べたり、帯を合わせたり。自分なりに、好きに見立てることができるようになったきっかけかもしれないですね。
― 意外すぎました。でも、その嫌だった着物営業の経験が、谷さんにとって初めての“見立て”だったわけですね。そのあと、どういう経緯でフランスへ?
谷 着物の会社を1年で退職して、実はそのあと花屋さんと雑貨屋さんとでダブルでバイトをしていました。もともと僕の実家が家具屋でして、仕入れのことを勉強してみようかなと。あ、花屋さんは花に興味があったので。
― 雑貨屋さんにお花屋さん。少しずつ、オルネに近づいているような、そうでもないような(笑)。でも、ご実家が家具屋さんだったとは!
谷 子どもの頃から見ていたので、「いずれ僕も家具屋をやるのかなあ」なんて、ぼんやり思っていたけど。そして、24歳のときにフランスに行きました。叔父さんが営む免税店の手伝いがきっかけで。
― 24歳!
谷 気づけばもう28年前ですよ…!
― フランスでのお話、聞かせてください。
谷 ここからは少し端折っていきますよ、ほんとに色々やってきたので(笑)。フランスへ行って5、6年後くらい、30歳になる頃だから2000年かな。クリニャンクールにある蚤の市にお店を構えることになりまして。
― 蚤の市というと屋外に並んだ屋台のような感じですか?
谷 そこの蚤の市は店舗型で、友人たちと一から掃除してリノベして…って、これも話すと終わらないからまたの機会に(笑)。そこで古い日本家具の店をやろうと思っていて、そのときに奥さんから、「私は着物も好きだから、家具と一緒に古い着物も買い付けてほしい」と言われたんですね。
― なんと、そこで着物と再会するわけですね。谷さんは「嫌だ」とはならなかったのですか?
古い着物のパッチワークで作ったバッグ
谷 ならなかった(笑)。実際に競り(せり)に仕入れに行ってみたら、意外と面白い着物がたくさんあったんです。ただ、僕が選ぶのは日本で人気のないものばかり。一般的には何に使っていいのかわからない、祝い着の産着や晴れ着のような柄、色のものですね。
― 産着…ですか?
谷 色使いが面白いけれど、当然大人が着るようなものではないからたくさん残っていて、「みんな持ってけ!」と言わんばかりにすごい量を持たされましたね。それがフランス人、特にイタリア人からすごく人気でした。僕が「良いな」と思って仕入れてきたものが売れる、気に入ってもらえるという経験があって、そこでまた一歩、布が好きになったのかも。
― それが布好きのきっかけのひとつだったとは。自分が見立てた着物が受け入れられたんですね。谷さんはどんな色使いの古い着物が好きだったのでしょうか?
谷 いわゆる、ザ・日本みたいな世界観はあんまり好きじゃないんです。例えば、派手な金色の装飾とか売れ筋の振袖は僕の好みではなくて…なんと言ったらいいんだろう(笑)。
― 言葉にするのは難しいですよね(笑)。
古い着物で見立てたバッグ
谷 でも着物としてというよりも、ひとつのファブリックとして切り取って見たときの色や柄が綺麗だなと思えるものかな。色の組み合わせ方に遊び心があったり、その時代特有の色使いが感じられたり、そういうものに惹かれるんだと思います。
― 着物という用途としてではなく、生地として布として捉えていたのですね。
谷 はい。日本だけの着物の価値観ではなくて、ヨーロッパの人たちの見立て力とでも言うのかな。実際にフランスでは、着物として買う人と布として買う人と両方いました。特に産着は子どもサイズだから、リメイクしたり、パッチワークにしたり、そのまま飾ったり。そうやって着物を扱っていく中で、僕自身も古い着物の生地を使ったバッグを作って、展示会へ出たんです。そこで海外のバイヤーさんとのやりとりを知ることもできたし、良い経験になりました。あと、そうだ!展示会のマダム!
― マダム!?
谷 展示会で、フランス人のマダムがカンタで作られたジャケットを着ているのを見かけたんです。その着こなしがすごくかっこよくて!カンタはちょっと着物の古っぽい感じというか、色使いとか、僕が好きだなあと思うものに似ている気がしていて。カンタに惹かれるようになったのは、この頃からだから20年前とかだと思いますね。
― マダムの着こなし、気になります…!ところで、カンタのどんなところに惹かれたのですか?
谷 僕が思うカンタの魅力は、この偶然の色の組み合わせ。日本の着物にも通じるような、色の組み合わせ、発色の仕方があるように感じました。
― 偶然性ですか。
谷 そう。オルネでカンタを仕入れるようになってから、本当にいろいろなファブリックを扱うようになりました。例えば、ブロックプリントは完全なプリントではなく、手で作っているからどうしても柄にズレが生じるんですよね。でもその発色やズレが、なんかカチッとした製品じゃないゆるさというか、それがカンタや古い着物とも共通して僕が感じる魅力ポイントなのかなと思います。
― 型にはまらない、そういう偶然性のあるアイテムはワクワクしますね。世間や常識に左右されずに、「自分の好き」を信じて大切にしてきた谷さん、すごい!
モロッコのラグをアートに見立てて飾っている谷家
― 帰国後、2004年にオルネ ド フォイユを青山に構えられたのですよね。先ほどカンタの話が出ましたが、オルネではこれまでどんなカンタを取り扱ってきたのでしょう?
谷 実は、最初は無地のカンタが多かったです。パッチワークや刺し子はされているけれど、白や生成りの一色のもの。少し前までは、水玉や花柄のパッチワークのようなラブリーな雰囲気が多かったかも。ここ数年は抽象画のような、何の模様かわからないような、そういうカンタを仕入れるようになりましたね。
― 谷さんの好みが変わってきたということですか?
谷 好みが変わったというより、「好き」の幅が広がったのかなあ。ブロックプリントも好きだし、ウィリアムモリスの柄も好き。オルネを始めた当初は、古いカーテンや壁紙を蚤の市でいろいろ買い漁りました。
― いわゆるアンティークやヴィンテージもの。谷さんの好きが詰まっていそうですね。
「古い生地を使って、何か作れないかな?」と試作中
谷 もともと古いものが好きということもあって、「今ここで買わないと、もう出会えない」みたいなものは、家具やカンタなど、今でもついつい買ってしまいます。
― その感覚、とても共感できます。実際、インドにカンタ探しにも行かれたのですよね?
谷 2年前に、初めてインドに行きました。現地でどういう風に流通していて、どんな場所で買えるのか、この目で見たかったんです。現地に行けば、好みのカンタにいくらでも出会えるかと思いきや、実際は探すのにとても苦労しました。
― 苦労したというと?
谷 いわゆる、Sクラスといった現地で良いと言われているもの、日本で売れているものは、僕の好みとは違ったわけです(笑)。もちろん綺麗にパッチワークされているのは良いことではあるけれど、あまりにも偶然性がなさすぎて、あまり魅力を感じなかったなあ。
― カンタはたくさんあるけれど、そのなかでも谷さんが「好き」と思えるものを探すのは大変だったんですね。
谷 そうですね。カンタもブロックプリントも、みんな良いかと言えば、好き嫌いがやっぱりあって。たくさんの人が「良い」と評価するからではなくて、自分が「好き」かどうか。それって案外わからない人も多いんじゃないかなって思うんです。そう思ったときに、嫌だった着物の営業の経験もきっと今に役立っているのかなって(笑)。自分の目で見て古い着物を選んできたこともそうだし、数あるカンタから見立てて選んできたという経験、すべてが今に活かされているのかなと考えるようになりました。
― 振り返ってみると、すべてつながっているという!ちなみに、谷さんは今、ご自身でも布やファブリックをコレクションして…
谷 してないです。昔はコレクターでしたけど(笑)。今は僕が良いなと思って仕入れてきたもの、見立てたものをお客さんが買ってくれて、喜んでもらえることの方が嬉しいんです。もともと、バイヤーになるのが夢だったので、仕入れたものを買ってもらうというのが僕のやりがいですね、プロとしての。
― 少し意外でした。仕入れのプロとしてのやりがいがあるわけですね。
谷 今まで、あまり人と比べることもなかったんです。でも、自分だけの好き嫌いやこだわりみたいなものが、認められて買っていただいて。存在が許されたというか、自分の居場所が見つかったような、そんな感覚でしょうか。
昔と違って最近は、お客さんがSNSに写真をあげてくれるので、それはもう最高に嬉しくって。実際に使っている写真やコメントがダイレクトにもらえるというのは、バイヤー冥利に尽きます。
―「こんな風に飾ってくれた」とか「こういう使い方があったんだ」とか、私たちにとっても気づきがありますよね。
カンタの一部分を見立てて制作したファブリックパネル
谷 ね。仕入れてきたカンタもそうですが、今後はオリジナルのブロックプリント生地や壁紙、新しく見立てて製品にしたものなど、その試みを理解してもらえると嬉しいです!今後はそういう布ものを中心に、色々と打ち出していけたらなと思っていますので。
― 谷さんが見立てる今後のアイテム、とても楽しみです!お話ありがとうございました。
2022.08.08