色彩と質感の絶妙なバランス

Interview
五嶋 穂波

photo by Honami Goshima

器でありながら、まるで自然界の景色を眺めているような美しさと心地よさを感じる五嶋穂波さんの作品。本格的な作家活動をスタートして、まだ1年足らず。ご自身の作品や制作への思い、お気に入りの「Arts&Crafts」についてうかがいました。

心地よく続けられる仕事を求めて陶芸の道へ

― 作家として活動を始めたきっかけを教えてください。

父が窯元を営んでおり、小さい頃からものを作ることが好きで、手で何かを生み出す仕事に憧れがありました。
大学在学時、心地よく続けられそうな仕事に就きたいと思い、陶磁器関係の仕事をする進路を選びました。
卒業と同時に岐阜県多治見市にある陶磁器意匠研究所に入って陶磁器の勉強を始め、現在の作家活動に至ります。

工房のようす。

― 作家として最初に制作したアイテムを教えてください。

作家とはいえない頃ですが、3年前に作った小鉢です。
形の作り方、色彩、釉薬のかけ方も現在とは違っていて、今よりも硬くて強さのある印象だと思います。
陶磁器で何が出来るのか、自分の好きな風合いがどんなものか、分からないことのほうが多くて、そのとき「いいな」と感じられるものを、窯ごとに少しずつ改良して作っていました。

 

3年前に制作した小鉢。現在の作品とは大きく印象が異なる。

自然の景色や印象、全てがインスピレーション

― 制作するうえでのインスピレーションは何ですか?

心が動かされるような景色や出来事と出会うことです。
新しいものを作るときは、植物や光、温度、空気感など、自然の印象をもとに作ることが多いので、より近くで自然を観察しようと思っています。
ひとたび庭を観察すれば、花びらや葉の薄くて柔らかな触感とか、光と重なって出来た色彩とか、美しいものがたくさん転がっていることに気づきます。
湿った空気や匂いなど、季節や景色を想像できるようなものも、制作のきっかけになります。

自宅の庭で感じる四季の変化。左上から時計回りに、春(庭に咲いた花)・夏・秋・冬。

大切なのは、わくわくを感じられるかどうか

― 制作するうえで大切にしていることは?

窯を開けたとき、わくわくした気持ちを感じられるかどうか、です。
焼けたものを見ながら、なぜ好きなのか、逆に違和感を感じることの要素は何なのかを、必死に考えます。

 

― 制作する上で大変なこと、苦労していることはありますか?

色彩と質感の絶妙なバランスを取れるよう、焼くことに時間をかけています。
毎回何かしら調整をするので、窯出しのときは緊張して静かにドキドキしています。
窯出し前日は、緊張し過ぎて、失敗する夢を見ることもあります(笑)。
そのぶん良い焼き上がりが見られたときの喜びは、とても大きいです。

 

釉薬名「せせらぎ」のボウル。水色と白の重なりが自然界の情景を思わせる。

― 制作をされていて「楽しい」「嬉しい」と思う瞬間はどんな時ですか?

ものづくりが好きなので、ほとんどの時間が楽しいです。
中でも、薄くて平たい土から形を作っていくときや、線を彫るときが特に楽しいです。
嬉しいのは、窯出しでいいものが焼けたと感じる瞬間です。
あと、展示会などで実際に手に取っていただいたり、温かい言葉をいただけると、やはりとても嬉しいです。
直接言葉を交わさなくても、何か魅力を感じてもらえる作品になっていけたらと思います。

それぞれの人にとって、心地よいイメージを大切に

― ご自身の作品をどう楽しんで欲しいですか?

自由に楽しんでいただければと思います。
食べ物をのせたり、飾ったり、色んな楽しみ方を見せてもらうことで、私自身も視野が広がり、とても勉強になります。
作品を見て感じる印象や想像は見る人によって少しずつ違っているので、それぞれの人にとって、心地良いイメージや気持ちと結びついていたら嬉しいです。

身近な風景。自然のさまざまな表情がインスピレーションの源になる。


わたしのArts&Crafts

ガラス彫刻家 デイル・チフーリの作品集です。
2年前、実際に展示をみたときに、作品自体から受ける力が大きくて興奮したことを覚えています。
作品の前で止まってしまう、見ていると気持ちが湧き立ってくるというような経験はめったになくて、それが制作の糧になっています。
制作に迷ったとき、展示を見たときの気持ちが、自分がどんな作品を展開していきたいのかを思い出させてくれる気がします。

 

五嶋 穂波|陶作家

1996 岐阜県生まれ
2019 国際基督教大学教養学部 卒業
2022 多治見市陶磁器意匠研究所 セラミックラボ修了

Instagram|@honameg

2022.11.25

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